Flutterは、依存関係注入(Dependency Injection、DI)をサポートしています。依存関係注入は、アプリケーションのコンポーネント間で依存関係を緩和するための設計パターンであり、コードの再利用性、テスト容易性、そして可読性を向上させることができます。
基本的な考え方
依存関係注入の基本的な考え方は、クラスが自分で依存しているオブジェクトを作成するのではなく、外部から提供されたオブジェクトを使用することです。これにより、クラスは、自身の機能に必要なオブジェクトを取得し、外部からの入力に対してより柔軟になります。
Flutterでは、依存関係注入を実現するために、依存性注入(Dependency Injection、DI)パッケージを利用することができます。DIパッケージは、アプリケーションで使用される各クラスやモジュールのインスタンスを管理するためのコンテナを提供します。コンテナには、各クラスやモジュールに関する情報が含まれており、アプリケーション内の異なる場所で簡単に取得できます。
モジュールは、依存性注入において関連する依存オブジェクトをグループ化するための仕組みです。モジュールは通常、特定の機能やコンポーネントの依存性をまとめ、依存オブジェクトの提供方法やライフサイクルを定義します。モジュールは、アプリケーション内での依存関係の整理と保守性の向上に役立ちます。
基本的な使い方
DIパッケージを使用するには、まず、依存性を注入するクラスを定義する必要があります。依存性を注入するためには、注入されるクラスのコンストラクターに依存するオブジェクトを引数として渡します。次に、依存性を注入するクラスのインスタンスを作成する際に、DIコンテナを使用して依存関係を解決します。
以下は、Flutterで依存性注入を使用するための簡単な例です。まず、注入されるクラスを定義します。
class MyService {
final MyDependency myDependency;
MyService(this.myDependency);
void doSomething() {
myDependency.doSomethingElse();
}
}
class MyDependency {
void doSomethingElse() {
print("Did something else!");
}
}
上記の例では、MyService
クラスがMyDependency
クラスに依存しています。MyService
のコンストラクターにMyDependency
オブジェクトを渡すことによって、依存性を注入します。MyService
のdoSomething()
メソッドは、MyDependency
オブジェクトを使用して何か別の処理を行うことができます。
次に、DIコンテナを使用して依存性を解決します。
void main() {
final container = DIContainer();
container.register<MyDependency>(() => MyDependency());
container.register<MyService>(() => MyService(container.resolve<MyDependency>()));
final myService = container.resolve<MyService>();
myService.doSomething();
}
上記の例では、DIContainer
オブジェクトを作成し、MyDependency
とMyService
のインスタンスをDIコンテナに登録します。MyService
のインスタンスを作成する際に、container.resolve<MyDependency>()
を使用して、MyDependency
オブジェクトを取得して、MyService
のコンストラクターに渡します。最後に、myService.doSomething()
を呼び出すことで、MyService
のdoSomething()
メソッドが実行され、MyDependency
オブジェクトが使用されます。
具体的に使ってみる
ここでは、Flutterの依存性注入を実現するために使用できるいくつかのパッケージのうち、代表的なものの一つであるget_it
パッケージを使用したサンプルコードを紹介します。
get_it
パッケージは、単純なシングルトンを簡単に実装するために使用されます。get_it
パッケージを使用すると、クラスを登録し、必要に応じてインスタンスを取得できます。以下の例では、MyService
クラスに依存するMyHomePage
ウィジェットがあります。
まず、get_it
パッケージをプロジェクトに追加します。
dependencies:
flutter:
sdk: flutter
get_it: ^7.6.0
インスタンスの登録・呼び出し
次に、get_it
パッケージを使用して、MyService
のインスタンスを登録します。
class MyService {
void doSomething() {
print('Hello, world!');
}
}
import 'package:flutter/material.dart';
import 'package:get_it/get_it.dart';
import 'my_service.dart';
void main() {
// インスタンスを取得するための依存性注入コンテナを作成します。
final getIt = GetIt.instance;
// MyServiceクラスのインスタンスを登録します。
getIt.registerSingleton<MyService>(MyService());
runApp(MyApp());
}
class MyApp extends StatelessWidget {
@override
Widget build(BuildContext context) {
return MaterialApp(
title: 'Flutter Demo',
home: MyHomePage(),
);
}
}
class MyHomePage extends StatelessWidget {
@override
Widget build(BuildContext context) {
// MyServiceのインスタンスを取得します。
final myService = GetIt.instance.get<MyService>();
return Scaffold(
appBar: AppBar(
title: Text('My App'),
),
body: Center(
child: RaisedButton(
onPressed: () {
// MyServiceのメソッドを呼び出します。
myService.doSomething();
},
child: Text('Say Hello'),
),
),
);
}
}
上記の例では、MyService
クラスのインスタンスをget_it
パッケージを使用して登録しました。MyHomePage
ウィジェットのbuild
メソッドでは、GetIt.instance.get<MyService>()
を使用して、MyService
のインスタンスを取得し、onPressed
コールバック内でMyService
のdoSomething
メソッドを呼び出しています。
ファクトリー関数を作成する
get_it
パッケージでは、registerFactory
メソッドを使用して、新しいインスタンスを生成するファクトリー関数を登録することができます。以下の例では、MyService
に依存するMyOtherService
クラスがあり、MyOtherService
のインスタンスをファクトリー関数で作成する方法を示します。
ファクトリーインスタンスは、必要に応じて新しいインスタンスを生成するためのメソッドや関数です。依存性注入において、ファクトリーインスタンスを使用すると、各要求に対して新しいインスタンスが作成されます。これにより、同じクラスの異なるインスタンスを異なる要求ごとに提供することができます。
class MyService {
void doSomething() {
print('Hello, world!');
}
}
import 'my_service.dart';
class MyOtherService {
final MyService myService;
MyOtherService(this.myService);
void doSomethingElse() {
myService.doSomething();
print('Hello, again!');
}
}
import 'package:flutter/material.dart';
import 'package:get_it/get_it.dart';
import 'my_other_service.dart';
import 'my_service.dart';
void main() {
// インスタンスを取得するための依存性注入コンテナを作成します。
final getIt = GetIt.instance;
// MyServiceクラスのインスタンスを登録します。
getIt.registerSingleton<MyService>(MyService());
// MyOtherServiceクラスのインスタンスをファクトリー関数で登録します。
getIt.registerFactory<MyOtherService>(() => MyOtherService(getIt<MyService>()));
runApp(MyApp());
}
class MyApp extends StatelessWidget {
@override
Widget build(BuildContext context) {
return MaterialApp(
title: 'Flutter Demo',
home: MyHomePage(),
);
}
}
class MyHomePage extends StatelessWidget {
@override
Widget build(BuildContext context) {
// MyOtherServiceのインスタンスを取得します。
final myOtherService = GetIt.instance<MyOtherService>();
return Scaffold(
appBar: AppBar(
title: Text('My App'),
),
body: Center(
child: RaisedButton(
onPressed: () {
// MyOtherServiceのメソッドを呼び出します。
myOtherService.doSomethingElse();
},
child: Text('Say Hello Again'),
),
),
);
}
}
上記の例では、MyOtherService
クラスのインスタンスをファクトリー関数で登録しました。MyOtherService
クラスのコンストラクターは、MyService
のインスタンスを受け取ります。MyHomePage
ウィジェットのbuild
メソッドでは、GetIt.instance<MyOtherService>()
を使用して、MyOtherService
のインスタンスを取得し、onPressed
コールバック内でMyOtherService
のdoSomethingElse
メソッドを呼び出しています。
シングルトンインスタンスを登録する
get_it
パッケージには、シングルトンインスタンスを登録するためのregisterSingleton
メソッドがあります。これは、アプリケーションのライフサイクル全体で1つのインスタンスを使用する場合に便利です。以下は、registerSingleton
メソッドを使用して、MyService
クラスのインスタンスを登録する例です。
シングルトンは、アプリケーション内で唯一のインスタンスを持つクラスのデザインパターンです。シングルトンクラスは通常、最初の要求時に初期化され、その後は同じインスタンスが再利用されます。これにより、アプリケーション内の複数の部分から共有されるデータや状態を効果的に管理することができます。
class MyService {
void doSomething() {
print('Hello, world!');
}
}
import 'package:flutter/material.dart';
import 'package:get_it/get_it.dart';
import 'my_service.dart';
void main() {
// インスタンスを取得するための依存性注入コンテナを作成します。
final getIt = GetIt.instance;
// MyServiceクラスのインスタンスをシングルトンで登録します。
getIt.registerSingleton<MyService>(MyService());
runApp(MyApp());
}
class MyApp extends StatelessWidget {
@override
Widget build(BuildContext context) {
// MyServiceのインスタンスを取得します。
final myService = GetIt.instance<MyService>();
return MaterialApp(
title: 'Flutter Demo',
home: MyHomePage(myService: myService),
);
}
}
class MyHomePage extends StatelessWidget {
final MyService myService;
MyHomePage({@required this.myService});
@override
Widget build(BuildContext context) {
return Scaffold(
appBar: AppBar(
title: Text('My App'),
),
body: Center(
child: RaisedButton(
onPressed: () {
// MyServiceのメソッドを呼び出します。
myService.doSomething();
},
child: Text('Say Hello'),
),
),
);
}
}
上記の例では、MyService
クラスのインスタンスをシングルトンで登録し、MyHomePage
ウィジェットのコンストラクターで、MyService
のインスタンスを受け取っています。build
メソッド内で、myService.doSomething()
を呼び出しています。
以上のように、依存性注入を使用することで、アプリケーションのコードをより疎結合にすることができます。また、テスト性や保守性も向上させることができます。get_it
パッケージは、Flutterアプリケーションで簡単に依存性注入を実装するための優れたツールです。
まとめ
依存性注入を使用すると、アプリケーションの各部分がより疎結合になり、よりテストしやすい、より柔軟で、より再利用可能なコードを作成することができます。Flutterの依存性注入は、DIパッケージを使用することで実現され、コンストラクターインジェクションをサポートします。コンストラクターインジェクションは、Flutterのアプリケーションで依存関係注入を実現するための簡単な方法です。
コンストラクターインジェクションは、依存性をクラスのコンストラクターを介して注入する手法です。依存性を必要とするクラスのコンストラクターパラメーターに依存オブジェクトを渡すことで、クラス内での依存関係の作成と解決を実現します。これにより、クラスのテストや再利用が容易になり、疎結合なコードを実現できます。